アンソニー・ステファンは、おそらく主演としてはマカロニウエスタン最多出演記録を持っているのではないでしょうか。名作などという言葉は論外として、秀作と呼べる作品もなく、そのほぼすべてが、凡作か駄作しかないという意味でも驚異的なスター(?)でした。なぜなら、これだけ駄作を連発していたら、とっくにお払い箱だったのでは、と普通は思うのですが。
しかし、なぜか彼は非常に気にかかる人なのです。DVDのシリーズが出始めた時、何より一番見たかったのが彼の出演作でした。つまらないことは分かっていました。映画館で、彼の出演作だけは確実に期待を裏切ってくれました。アクションも何だかあまりうまくないし、銃にいたっては撃ってるふりだけでごまかしているように見えました。
しかしなぜか気になるのです。
しばしば彼はマカロニ製造工場の中の単なる一部品として言われたとおりにただ動いているだけ、に見えます。それも低予算の粗製濫造工場です。しかしその役割を黙々とこなしている彼が気になるのです。そしてこれが典型的なマカロニウエスタン製造法だったのではないでしょうか。たまたま昨夜、『地獄から来たプロガンマン』の前半を見ました。話が暗いことと、冒頭の群盗の爆走シーンで一瞬ビニールだか布切れだかが馬に蹴られて地面から捲き上がるのです。この場面だけで映画に入り込む気持ちは消え失せ、撮り直せばいいのに、と思ってしまうのですが、そんなお金はなかったのでしょう(私は飛行機雲が映ったマカロニも、死人が息をしているマカロニも見たことがあります)。そういう意味であまり見直す気持ちになれない映画のひとつなのです。
アンソニー・ステファンの魅力はふたつあります。まず動かない絵(スチール)としてさまになっていること。これはポスターとか、DVDのジャケットだけ見ると何か期待をそそるというか、昔の貸本の表紙というか、中身との落差は大きいのですが。もうひとつは手足の長い彼が馬に乗って走り過ぎるロングショットが見るに耐えること。特に『地獄から来たプロガンマン』では連れ去られた子どもを探し求めて、およそ20年(!)あまりも馬で走り続けます。要するにこれもやはり絵なのでした。
これはストーリーのことを真剣に考えながら見る映画ではありません。ただひたすら絵を音楽に乗せて見て行く時に、なつかしく心にしみる映画に変わっていたのでした。