11月10日の午前中に甥っ子の運転で田川に到着した。甥っ子と娘は街中の会場を見に行き、私は初日のシンポジウムを聞くことにした。パネリストのほとんどのみなさんが山本作兵衛に直接関係がある人たちで、内容の濃さもさることながら、組み合わせの面白さというか、こんな面白いシンポジウムは久々という感じで聞いていた。
上野朱(あかし)さんは上野英信さんの息子で、淡々と父上と作兵衛さんとの関わりについて語られていた。写真家の本橋成一さんは作兵衛さんとの直接の関わりの他、土門拳の「筑豊の子どもたち」の例をあげながら、炭坑というテーマにカメラを向けるときの目線の重要性について暗黙のうちに作兵衛さんや英信さんに教えられたことを語られた。森山沾一(せんいち)先生は作兵衛さんの取り壊し前の自宅から大量の日記を発見し、その解読を進めている。そして緒方恵美さんは作兵衛さんのお孫さんに当たる方で、彼女のトークの破格の面白さは容易に伝えがたいが、祖父に対する敬愛の情あふれるその内容は時々暴走をはらんで、会場を沸かせ、感動させていた。進行を務めた田川市美術館学芸員徳永恵太君の技量もなかなか見事だった。この有能な人材を美術館はもうすぐ手放すそうだ。
こんな内容のあるシンポジウムの翌日にいったい何を話せばいいのかちょっと気後れしたが、母里はあっさり山野さんは今度の展覧会全体のことを話せばいいと、とか言いながら、翌日そんなわけにいかなかったことは先に書いたとおりだ。
夕方閉錠に回る母里大徳君について急いで会場を見て回り、夜は山賊鍋。そのあとスナック聖とかいう会期限定(?)飲み屋のどんちゃんさわぎに巻き込まれて田川の夜は更けて行った。