クリスマスはミステリー、ではなくて本当はクリスティー、だったか、そんなコピーがあったが、こちらはネロ・ウルフのシリーズ。若い頃たまたま読んだ『赤い箱』以来、長編はもとより、アンソロジーにおさめられた短編から雑誌掲載の中編にいたるまで、日本語に翻訳されたものはほぼすべて読んだと思う。ということでこの本に収録された3編もすでに過去の翻訳で読んだことがあるはずだが、かろうじて表題の『黒い蘭』を部分的に覚えていた程度でそれ以外はほとんど忘れていた。小説としてはチャンドラーと比べるわけにもいかないし、同時代のシリーズ物であれば、クレイグ・ライスのマローンシリーズのほうがずっとおもしろい。しかしながら蘭と美食の贅沢な生活を享受しながら、預金の残高も時々気にする安楽椅子探偵は、依頼がなければ仕事もないというわが自営業時代の境遇にも似て、親近感を持っていた。最近ハヤカワミステリーからも長編が刊行されたと思い、本棚を調べたら『編集者を殺せ』が2005年発行で、10年前を「最近」と認識する老人の錯覚だった。『黒い蘭』に続いてもう1冊『ようこそ、死のパーティーへ』が刊行された。昔ほど熱中して読むわけではないが、なつかしさもあって、枕元に置いてある。